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風邪の漢方処方

オーダーメイド医療の元祖

現場で漢方薬を使っていると、漢方に触れる機会の少ない先生やナースからは「薬の名前が難解な漢字で、読み方がわからない」と言われることがあります。また、「西洋薬で十分治療可能では?」という質問も受けます。

実は漢方薬は最近はやりのオーダーメイド医療の元祖なのです。

色々な人の体質に合った処方が、長い時代の中で取捨選択され、生き残って現在に至っています。遺伝子を解析して抗がん剤の効果を調べて投与する時代ではありますが、先日、ある血液内科の専門医の先生が、患者さんの治療中に合併症に苦しむ様子を見て、あの手この手をつくし、最後にたどり着いたのが漢方だったという話を伺いました。やはり漢方には漢方の良い点があるのだなと思った次第です。

病気に苦しむ目の前の患者さんを良くしたいと思えば、西洋薬も漢方薬も使えた方が良いし、患者さんにとってみれば、苦痛が和らげばどちらでも良いはずですね。

漢方用語を使わないで漢方を解説してみると

今回は難解な漢方の用語をできるだけ使わずに漢方薬を解説してみたいと思います。

まず、漢方薬の多くがセット処方になっています。○○湯とか○○散とか○○丸とが記載されているのは、構成生薬のなかでもエース級の活躍をする生薬の名前(これを君子の働きをするので君薬と呼ぶ)がつけられていることが多いのです。

使用されている生薬の数がつけられている処方名もあります。
例えるなら、エースを他の生薬で支えたり、補ったり、時にはなだめたりした一つのチームであると言えるかもしれません。

中には6種類全部がエースの六君子湯(りっくんしとう)などという処方もある。私は患者さんに聞かれたときに「V6」などと説明しています。

体質の分類

では、漢方処方では、体質をどう分類しているのでしょうか?

これが、専門家の間で使用される「証(しょう)」とか「陰陽(いんよう)」とか「虚実(きょじつ)」などの用語です。

簡単に言えば、「」とは、その薬が合っている体質のことです。
例えるなら、高血圧の患者には昇圧剤ではなく降圧剤が処方されるようなものです。

ある患者に○○湯(お湯で有効成分を煎じたもの)を処方された場合には、その患者の体質が○○湯に合っているから処方されたのであって、同じ病気でもAさんは○○湯で体調がよくなり、Bさんは××散(生薬を粉にしたもの)で体調がよくなるという具合であって、同じ病気に単一の処方ではないところが、西洋医学に慣れた眼からは合点のいかないところかもしれません。

陰陽」とは、簡単に言えば、体温産生エネルギーが少ない場合が「陰」、過剰な場合が「陽」ということになります。

「陰」には冷えを伴う場合が多く、体を温める成分の生薬が使用され、「陽」には火照りやのぼせを自覚する場合が多く、体を冷やす成分の生薬が使用されます。(ちょっと乱暴な分け方なのですが)。

虚実」の「虚」とは、簡単に言えば虚弱体質、「実」は体力が充実している状態です。

漢方にはいろいろなパラメーターがあり、厳密には「望(ぼう)」「聞(ぶん)」「問(もん)」「切(せつ)」という4つの診察法があり、興味のある方は是非正書を参考にしていただきたい。)

風邪の処方には?

さて、寒い時期に流行る風邪などに照準をあわせ、頻用処方を解説したい。

現在では、数々の細菌、ウイルスなどが発見されており、これら異物の上気道などから体内への侵入により多くの感染症が発症することが解明されている。

だが昔の人は当然、細菌、ウイルスなどの存在は知り得なかったため、病気の原因を「病邪(びょうじゃ)」と呼んでいた。そして「病邪」は体の表面(「表(ひょう)」)から徐々に体の内蔵方向(「裏(り)」)に侵入していくと考えていた。(図)

そこで、病気の初期、まだ、「病邪」が体の表面にあるうちは、発汗させて「病邪」を追い出そうと考えていた(これを「解肌(げき)」という)。

その場合の基本処方が桂枝湯(けいしとう)である。

構成生薬は桂枝(けいし=シナモン)芍薬(しゃくやく=シャクヤクの根)生姜(しょうきょう=ショウガ)大棗(たいそう=ナツメ)甘草(かんぞう)の5つで、桂枝は発汗剤(解肌剤)を主に胃薬の役目も兼ね、芍薬は胃薬として、生姜は体を温める作用として働くと大まかにとらえてみたい。

また、生姜 大棗 甘草は、内臓(裏)を補強する作用を担っているとも考えられている。

この「生姜 大棗 甘草」は内臓補強ユニット(乱暴な分け方ですが)として度々登場する。桂枝湯(けいしとう)にさら強力な発汗剤である麻黄(まおう)、首筋の凝りをとったり解肌作用のある葛根(かっこん=クズの根)を加えた処方が葛根湯(かっこんとう)である。

この麻黄(まおう)という生薬は、不思議なことに桂枝と組み合わせると発汗作用が出現し、かなり強い清熱薬である石膏(せっこう)という鉱物系生薬と組むと利尿作用が現れる。

また、麻黄が杏仁(きょうにん)と組み合うと、気管支粘膜などの浮腫をとる作用が現れる。急な感冒に麻黄湯(まおうとう)が使用されるが、内容は麻黄、杏仁、桂枝、甘草という実に強力な発汗作用を素早く効かせる組み合わせである一方、「生姜 大棗 甘草」という内蔵補強ユニットが入っていないため、長期の服用や虚弱者には適さない。

一般的に感冒の寒けで、体表面の冷えには桂枝、麻黄、生姜、杏仁で温めたり発汗させたりし、内臓(体の芯=裏)の冷えには乾姜(かんきょう)、細辛(さいしん)、附子(ぶし=トリカブトの根を乾燥させた生薬)などの入った処方を使って温める治療を試みる。

ここで面白いのは、おなじショウガでも、生だと体表面の寒けをとり、乾かすと内臓の冷えをとって温める作用が強まるなどの違いの見られることである。

生姜(しょうきょう)の含有されている葛根湯などを煎じ薬ではなくエキス剤で使用する場合、事実上生姜のエキスは(フリーズドライであるゆえ)生ではないと考え、八百屋で買ってきたひねショウガを擦り降ろしてお湯に一緒に溶いて服用するとより効果を高めるという説を耳にしたこともある。

また、急に内臓(体の芯=裏)の冷えから発症する感冒症状には、麻黄と内臓の冷えに効く、細辛(さいしん)、附子(ぶし)を組み合わせた麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)などを使うことがある。

桂枝、麻黄の発汗作用の組み合わせに乾姜(かんきょう)、細辛(さいしん)という「内臓温めユニット」が加わり、さらに甘草と、胃薬としての芍薬が入り、そこに咳や痰に効果がある半夏(はんげ)と、「あまり体内から出て行って欲しくない水分を止める」五味子(ごみし)という生薬が加わったのが小青竜湯(しょうせいりゅうとう)である。

ここで言う「あまり体内から出て行って欲しくない水分」とは、鼻水であり、この小青竜湯が、感冒の鼻水でも、花粉症の鼻水でも、適応さえあれば効いてしまう訳である。




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