寿命は100歳
最近は漢方をアンチエイジングに応用する動きもあるようです。“人は100歳まで生きられるが、老化とともに五臓の働きが、『肝』『心』『脾』『肺』『腎』の順に衰えていき、ついには虚となり寿命を迎える”と、漢方医学の古典に書かれています。この五臓の様々な変化に対応し、その時々に応じて治療内容を変化させて行くのが漢方であり、昔からアンチエイジングに自ずと利用されてきたとも言えるでしょう。
秦漢時代に書かれた漢方医学の古典『黄帝内経(こうてだいけい)』によると、
「人間はおよそ100歳まで生きられるが、50歳頃には『五臓』の『肝』が衰え始め、視力が低下してくる。60歳になると、『心』が衰え始め、笑いが少なくなり、物事を悲観的に考えるようになる。70歳を過ぎると『脾』が衰え始め、皮膚のしわが増えてくる。80歳になると、『肺』が衰え始め、思考力が低下して物忘れがひどくなる。90歳になると、『腎』が衰え始め、全身の運気が低下する。100歳になると、全てが虚となり抜け殻になる。」と記されています。
つまり、老化とともに五臓(肝・心・脾・肺・腎)の働きが衰え、ついには『腎』の機能の衰えをきたして100歳の寿命を迎えると考えられていたようです。
この五臓の様々な変化に対応しその時に応じて治療内容を変化させて行くのが漢方です。
漢方医学では、『気』にはこの世に生まれるときに親からもらう『先天の気』と、この世に生まれてから天地などの自然界から自分で吸収して得てゆく『後天の気』があるとされています。
漢方の『腎』とは、西洋医学で指す「腎臓」だけではなく、泌尿生殖器系、内分泌系まで含む、身体の成長や生殖を司るところで、親から受け継いだ生命活動の根元ともいえる『先天の気』を蓄えている部位とされます。
『腎』が衰えた『腎虚(じんきょ)』では気が不足しており、物事に驚きやすくなったり恐れやすくなったりします。『腎』が西洋医学の内分泌系も範疇に含むとすれば、副腎などの機能にも関与していることになり、生命活動にとって重要な役割を担うホルモンを分泌する副腎皮質の機能なども低下していると考えれば、「腎虚」が老化に深く関わっているという説も西洋医学的に理解可能です。
一方、『後天の気』のうち、生体活動や体の成長に必要なエネルギーで飲食などを通して吸収される気を『水穀(すいこく)の気』と言いますが、この『水穀の気』を司るところが『脾』であるとされます。
漢方で言う「脾」は西洋医学で言う脾臓と違って、ひろく消化・吸収・代謝などを担う部位のことを指します。そのため、『脾虚(ひきょ)』では生体の消化吸収や水分・栄養素の代謝などが低下し、徐々にやせ衰えて皮膚のしわが増えるというとらえ方もできます。
上記の考えをまとめれば、同じ親から産まれた兄弟でも証(体質)が異なる事は当然であり、また、同じ人間であっても各年齢において証が異なる事になり、そのために漢方薬の処方もその時々によって変化してゆく必要が生じると考えて治療を行います。
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