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ドクターコラム 一覧

食物の陰陽(体を冷やさない)

寒さをのりきる 〜 食物の陰陽

古代中国で作られた季節の分け方が「二十四節気」です。秋分の日に昼と夜の長さが同じとなり、これより徐々に夜の長さが長くなります。古代の人は、太陽に満ちた昼を陽、その逆に暗い夜を陰とも考えました。

太陽黄経二百二十五度、新暦で11月7日頃を「立冬」と定め、徐々に季節は冬に向かって寒くなり、旧暦11月子(ね)の中気(新暦12月22日頃)を「冬至」と定めました。

冬至は、北半球では昼が最も短く、夜が最も長い。つまり、陽の気がもっとも弱く、陰の気がもっとも強いといえます。

冬至から約60日経つと、陽の気が回復してきて陰の気と同じになる、すなわち春分に至ると考えていたようです。

この間にも旧暦12月丑(うし)の月の正節(新暦1月6日頃)が「小寒」で、寒気がさらに加わり、旧暦12月丑の月の中気を「大寒」と言い、1年で最も寒い時期とされます。

そして、冬の3ヶ月を「閉蔵(へいぞう)」と称しました。これは、寒さのためにすべての門戸が閉ざされ、家に閉じこもる時期という意味です。

この時期の養生法は、「素問(そもん)」という古典によれば、

「夜は早く寝て、朝は、日が昇って少しでも陽気が満ちてから起き、寒気に触れて体力を損なわないようにしなさい。

精神的には気を静めて何かをするという志を深くせずに、密かな心で満足するべきである。

肉体的にも直に寒気に触れずに体を温かく保って、過労などで発汗して体内の陽気を逃さないようにするべきである。」と書かれています。

このような養生法ができれば良いのですが、忙しい現代人においては、一部の人をのぞいて行なうのは無理でしょう。

そこで、現代人でも行える冬の養生法を考えてみました。


1)飲食物の陰陽

まずは飲食物の陰陽を知るところから始めます。

食養生の大家の小倉重成氏いわく、

「動植物は一般に陽性である。植物でも地下に向かって伸びるものは一般に陽性傾向にあり、地上に向かって伸びるものは陰性傾向を有している。

したがって菜っ葉、果物は一般に陰性であり、根菜は一般に陽性である。

ただし、食物は料理法によっても陽性化、陰性化することがある。

煮炊きして熱を加えたものは、料理したてで温かい時は陽性である。陽に干したものは陽性である。塩漬けにして時を経たものは陽性である。

逆に、生のまま食べるもの、酢、砂糖を使用したもの、冷蔵庫などで冷やしたもの、煮炊きしても時間をおいて冷えると陰性に傾く」

(創元社「再増補改定新版 自然治癒力を活かせ」より引用)

ただし、食物の陰陽に対しては、さまざまな考え方がありますので、上図は1つの参考例と考えていただければ幸いです。

また、「心土不二(しんどふじ)」、「郷に入っては郷に従え」という言葉があるように、その季節にその土地でできたものを、体を冷やさないようにして食べることは、基本とも言えるでしょう。

このように、食物にも陰陽があることを知り、冬はできるだけ体を冷やさない陽性の飲食物で体を養生することは大変大事なことだと考えています。


2)身体が冷えると病気にかかりやすくなる

食養生で体をできるだけいたわっていても、冬は多くの感染症が流行り、病気がちになることもあります。

また、「未病(みびょう)」といって、漢方医学では、まだ病気になっていない状態、病気になる前の正常から逸脱した歪みのある状態を、独特の概念でとらえます。

そして、何となく体調がすぐれない時、西洋医学ではまだ何も異常がみつからないが、調子の悪い時には、この「未病」の考え方を用いて、本当の病気になる前に治療を行ってしまうのが漢方医学のすごいところです。

ところで、漢方は明治時代以前までは、「湯液(とうえき:今の漢方の内服薬)」と鍼灸治療が、車の両輪のようにお互いを補いつつ治療を行っていました。

しかし、明治政府の西洋化政策により、漢方は西洋医学に比べて「野蛮な医学」と烙印を押され、湯液治療と鍼灸治療が分けられてしまいました。

その後、資格をもった多くの日本の医師たちによって、特に湯液治療は守られ、エキス剤の普及もあって現在に至っています。

一方、鍼灸治療は鍼灸師の先生によって守られ、現在に至ります。漢方治療には鍼灸治療も含まれているのです。

さて、冬は何と言っても寒いので、体が冷えて色々な症状や病気にかかりやすいのです。

最近の科学の進歩は素晴らしく、インフルエンザを即座に診断でき、たった1回吸入するだけで、インフルエンザが劇的に治る抗インフルエンザ薬なども登場しました。

予防医学も発展し、昔なら難治であった様々な病気が多くのワクチンで予防できるようになりました。

それでも、冬は多くのウイルス性疾患などが暗躍する季節。いきおい、漢方薬を使用する機会も多いのです。


3)漢方の温性、熱性

実は、漢方薬を構成している生薬にも体を冷やしたり温めたりする作用があり、これを「生薬の四気(しょうやくのしき)」と呼んでいます。

体を強く冷やす「寒性(かんせい)」、体を冷やす「涼性(りょうせい)」、体を冷やす作用も温める作用もない「平性(へいせい)」、体を温めて冷えをとり機能を活性化させる「温性(おんせい)」、体を強く温めて冷えを取るほか、様々な機能を回復させる「熱性(ねっせい)」。」このように生薬を寒、涼、平、温、熱に分けるのが四気です。

当然、寒い冬は温性の生薬と熱性の生薬を含んだ漢方薬を用いる機会が増えます。

温性の生薬の代表的なものとしては、桂皮(けいひ)、細辛(さいしん)、当帰(とうき)、杜仲(とちゅう)、陳皮(ちんぴ)、生姜(しょうきょう)など。

熱性の生薬の代表的なものは、乾姜(かんきょう)、呉茱萸(ごしゅゆ)、附子(ぶし)などです。

例えば、いきなり体がゾクゾクして風邪症状に陥ることを直中の少陰(じきちゅうのしょういん)というのですが、このような症状の時は温陽薬(おんようやく)の麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)を用います。

麻黄(まおう)は熱を巡らせ、附子(ぶし)は熱の量を補充し、細辛(さいしん)は体の表面の熱を補充して、即座に体を温めて風邪(外邪:がいじゃ)を体から追い出そうとします。

参考にしていただければ幸いです。


4)身体を冷やさない

体が冷えて病気になる。病気にならないようにするには、体を冷やさないようにするのが第一です。世の中には、体を温める養生法があまたありますし、体を冷やさない洋服を着たり、暖かい部屋にいることも大切です。最近は、「発熱する下着」などもあり、便利です。

どうしても外出しないといけない時など、最近は利便性を考えて、「使い捨てカイロ」なる文明の利器があります。

患者さんの中には、臍の下あたりにある、心身の精気の集まる臍下丹田を温めるためか、臍下にカイロを貼っている方も見かけます。腹痛や、腹部の冷えには効果がありそうです。

また、背中にある、脾兪、腎兪、命門というツボが集まっている場所にカイロを貼ると、即座に体が温まり、寒さを乗り切りやすいと、鍼灸に詳しい方から教わりました。

やってみると、確かに寒さをしのぎやすいし、カイロ1枚で1日もつことも多々あります。臍下と背中にカイロを貼るというのもいいかもしれません。

これに関しては、正解はないと思われますが、皆さんも試してみて、自分なりの冷えに対する防御法を手に入れてみてはいかがでしょうか。

(2017.2.7)




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