漢方医学には、同病異治(どうびょういち)と異病同治(いびょうどうち)という考え方があります。
同じ病気であっても、患者さんの証(体質)によって、異なった処方が使用される事を「同病異治(どうびょういち)」と言います。
同病異治の具体例
例えば、同じ風邪であっても、虚弱体質の患者さんの風邪には桂枝湯(けいしとう)や香蘇散(こうそさん)が処方され、比較的体力のある風邪の患者さんには、葛根湯(かっこんとう)、麻黄湯(まおうとう)、小青龍湯(しょうせいりゅうとう)などが処方されるといった具合に、患者さんの証や体質に応じて、使い分けられる事を指すものです。
一方で、漢方薬は、個々の体の体質や証、体の状況に応じて処方されるため、全く異なる病気に対して、同じ処方薬が用いられることがあります。
異病同治の具体例
例えば、葛根湯は風邪薬として有名ですが、肩こり、中耳炎、扁桃腺炎、蕁麻疹、虫歯などに用いられることがあります。
別の例で言えば、20歳台の不妊症の女性にも、40歳台ののぼせと頭痛に悩む女性にも、50歳台の冷え性と足のむくみに悩む女性にも、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)という処方薬が用いられることがあります。
この患者さんたちの共通点は、虚証(虚弱体質)で“お血”(本来の血液の流れが滞っている状態)があるということなのですが、西洋医学の観点からすれば、年齢も症状も異なる患者さんに、同じ処方薬が用いられることに違和感を覚えられる場合もあると思います。
上記の様に、1つの漢方薬を、いくつもの異なる病気や症状に処方して、治療してゆくことを異病同治(いびょうどうち)と言います。
西洋医学と漢方の違い
このように、漢方医学では、西洋医学とは違って、「この病名にはこの薬」、というような決まった関係はなく、患者さん個々の体質、症状に合わせて決めてゆくところに特色があります。
さらに、先ほどの当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)で言えば、元々は冷え性の治療を目的に服用していたのに、長年悩んでいた生理不順、腰痛、肩こりなどが同時に改善してしまったという、患者さんにとっては思わぬありがたい効用があるのも、漢方薬の治療によく見られる効果の一つです。
漢方薬は、主に体の歪みをとり、体質改善の効果があるため、「ある処方を飲んでいたら同時にめまいや皮膚病も治ってしまった」、「ある処方を飲んでいたら、体調がよくなり、便通もよくなり、食欲が出た」などの思わぬ効用があるのが特徴です。
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