皮膚結核の治療薬をがん治療薬に応用
発明者である丸山千里先生(日本医科大学名誉教授・元学長)の名前から、後に「丸山ワクチン」と呼ばれるようになったこのワクチンは、ドイツのロベルト・コッホが1890年に発明したヒト型結核菌製剤ツベルクリンにヒントを得ています。
現在では結核診断用の薬剤として知られるツベルクリンは、もともとは結核の免疫療法として開発されたものでしたが、逆に症状を悪化させる結果を招き、治療薬としては失敗でした。しかし、丸山先生はコッホの試みに強い関心を持ち、「副作用につながる毒素を特定し、それをツベルクリンから取り除く」という発想の下に研究を続け、ヒト型結核菌においては蛋白質が病状を、多糖体が治癒を促進するものであることを突き止められました。
1945年より丸山先生は、開発した多糖体を主成分とするワクチンによる治療を開始。皮膚結核、肺結核に対して著しい効果をもたらすだけでなく、やがて結核菌近縁の抗酸菌であるらい菌を病原とするハンセン病にも効果が確認されています。
丸山先生はさらに、肺結核、皮膚結核の患者にはがんが少ないという観察結果をもとに(実際の因果関係は不明ですが実例は沢山あります)、がん治療にこのワクチンを用い始められました。画期的な試みでした。そして、昭和40年代以降『がんの特効薬』との噂が一気に高まり、医薬品の承認の手続きより世論が先行することになってしまいました。
癌患者やその家族の団体による嘆願署名運動などが行われ、国会でも医薬品として扱うよう要請されましたが、今日においても、その薬効の証明の目処は立っておらず、医薬品として承認されるには至っておらず、現在も、有償治験薬という中途半端な位置づけのままです。
丸山ワクチンによる治療を望む患者あるいはその家族は、丸山ワクチンの治験を引き受けてくれる医師に、治験承諾書(丸山ワクチンによる治験を引き受けるという担当医師の承諾書)およびSSM治験登録書(現在までの治療経過をまとめた書類)を整えて貰わなければなりません。1972年以来この状況が続いています。 なお、放射線療法による白血球減少症の治療薬として、1991年認可された「アンサー20」(ゼリア新薬工業)は丸山ワクチンと同成分です。
丸山ワクチンが効果ありとされた白血球減少症は、悪性腫瘍によって引き起こされる症状、あるいは、その化学療法や放射線療法時の副作用のひとつです。
丸山先生および丸山ワクチンの支持者たちは、抗がん剤として認可されることを切望していましたが、”放射線療法時の白血球減少抑制剤"としての認可に留まり、生みの親である丸山先生が部分認可の9カ月後に死去されたため、先生の生存中にはついに抗がん剤としての認可は果たせませんでした。しかし、支持者たちの需要は以後も衰えず、末期がん患者の最後の切り札と位置づけ、現在でも抗がん剤としての一刻も早い認可を望んでいます。
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